[#832]貯金箱

全くの素人が陶芸を始めてから半年後。
札幌の中心部にギャラリーと工房をオープンしました。
制作はもちろん販路、市場、ニーズ…などなど、陶芸というものを全く知らないで始めちゃった僕は、都心部でショップと工房を開いて作品販売・陶芸体験などをすれば採算が取れるだろうと超あまい事業計画でお店をオープンさせました。

ビルの2Fフロア(3テナント分)を借り家賃光熱費に30万円、スタッフ3人分の給料、その他諸々を考えると…
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開業費用とは別に運転資金として借り入れた300万円は湯水のように数ヶ月であっという間に無くなりました。
最後にはこの貯金箱から小銭をかき集めてなんとか家賃を支払った。30過ぎの大人が。
「あんな思いは二度としたくない」
この貯金箱をみるとそんな思いで身が引き締まります。

貯金箱を開けてから本当の勝負が始まったような気がします。
もうあとが無い。
「一生懸命」という言葉の意味を初めて判ったような気がしました。
それまでは一生懸命といっても本当に命が懸かっていると思った事はありませんでした。

当初陶芸教室は「人に教える自信が無い事」「陶芸教室に対するイメージが悪い(僕の中で)」ということでやっていませんでしたが、始めました。
鞄には常に店のビラとガムテープを入れておき、通勤途中は電柱に貼って歩きました。
知り合いの飲食店にお願いして器を作らせてもらいました。
天気の良い日はビルの前の路上に器を並べて安売りもしました。
もらえる仕事は何でもやりました。
正月以外はほとんど休まず働きました。
土下座してでも買ってもらおうという心持ちになりました。
買っていただいた時、心から「ありがとうございました」言えました。
作品に対する意識も変わりました。

その甲斐あってか貯金箱に手をつける事は無くなりましたが、毎月支払いを済ませると何も残りません。
なんとか家からお金を持ち出す事はありませんでしたがお金を持ち帰る事もありませんでした。自分の小遣いが精一杯。
こんな状態が1年以上続いたでしょうか。妻には感謝です。

何度か外でアルバイトなどした方がいいのかとも思いましたが、それだけはしまいと我がままを通させてもらいました。
僕は陶芸を始める前、23歳の頃からずっと飲食店をやっていました。
同世代の店をやっている仲間もたくさんいましたが、経営が悪くなり店を守るためにアルバイトを始めると必ずと言っていいほど廃業に追い込まれます。そんな姿をたくさん見てきました。
他の仕事に時間を取るくらいならできる事はまだあるはず。これで生きるとは、そういうことではないか?

その後、初めて家に持ち帰ったお金は2万円くらいだったと思います。不甲斐なさでいっぱいでした。
こんな話は成功者が笑って過去を振り返り話すことだと思いますが、恥ずかしながら今話しておきたいと思いました。
陶芸を始めて7年が過ぎ僕は今でもこの戦いの最中です、明日どうなるか何も保証は無く命懸けで生きています。
デスクの横にある貯金箱を見るたびにこの事を思いだします。







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by tenstone | 2010-11-02 13:33 | 陶芸コラム・column | Comments(11)
Commented at 2010-11-02 22:48 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2010-11-03 00:40 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2010-11-03 13:23 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2010-11-03 13:57
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by tenstone at 2010-11-03 22:37
□鍵コメ1さん
はじめまして、これからもよろしくおねがいします。

□鍵コメ2さん
自分を含め、勇気を必要としている人に今伝えておきたいということです。

□鍵コメ3さん
どの仕事も、仕事としていればプロなわけで大変なのはみんな一緒。
その気持ちを忘れずがんばります。

□鍵コメ4さん
いつもありがとうございます。
とても励みになっています。
Commented by 赤鼻 at 2010-11-06 01:08 x
懐かしい貯金箱だねえ
Commented by tenstone at 2010-11-06 19:05
□さかつめ君
俺は昔からコレに頼ってます^^
Commented by tyawannyakobe at 2010-11-11 00:30
いいお話、ありがとうございました。
わが身を振り返って、甘さに恥ずかしくなります。
一度ついた怠け癖はなかなか抜けませんが、
老体に鞭打って、がんばろうと思えました。

あらためて、有難うございます。
Commented by tenstone at 2010-11-11 23:19
□ tyawannyakobeさん
若輩者の話しに…恐縮です。
Commented at 2012-01-31 01:32 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by tenstone at 2012-01-31 16:23
□鍵コメさん
そんなこと言ってたっけ?懐かしいね(笑)


札幌の陶工房&器ギャラリー【STUDIO TENSTONE】橋本忍の作品紹介や陶芸のお話。下のマイクマークからインタビュー記事へ


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北海道札幌市白石区平和通9丁目北10-16
電話050-7122-8155
OPEN 11:00~18:00 日祝休

※個展などで留守にしている事もありますので、お越しの際はご一報ください


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■橋本忍展
2月11日〜16日
@うつわ謙心(東京)

■『春天.喫茶去!』
5月9日〜30日
@時食商行(台北)

■橋本忍個展
7月24日〜8月1日
@望春山
深圳(中国)

■お茶を楽しむうつわ展
9月2日〜7日
@il dono 札幌店(札幌)

■グループ展
11月
@TOUCH CERAMICS(香港)




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