急須の構造を考える
僕は半年だけ陶芸を習い、その後すぐに独立してしまったためほとんどを独学でやらざるを得なく、ネットでの情報はずいぶん参考になりました。
しかし自分にとって知らないことでも、プロの方や経験者にとっては当たり前すぎて全く触れられないことも多く悶々とすることが多かったのも確かです。
そんなこともあり、ブログを書き始めたときから陶芸の技法について、サークルや自宅で独学の陶芸をされている方々の参考になればと思い、なるべく「これは当たり前」という前提のない情報の共有に心がけています。
そういうことなので、プロの方や上級者には退屈な内容も多いと思いますがおおめに見てくださいね。(笑)
[#440]急須の作り方・茶こし編
[#442]急須の作り方・口の接着編
急須の作り方を検索してる方は多いようでこれらの記事は常にアクセスが多いです。
これらはずいぶん前の記事なので、今とはちょっと作り方やフォルムも違ったりして照れるところもありますが参考にしてみてください。
今回は急須の構造について考えてみようと思います。
これらは僕が考える基本的なルールですが実際に制作するときはこれらのルールとデザインとでバランスをとる必要があると思っています。
急須(ポット)は実用の道具ですが合理的に使い易さだけを追求するのでは自分が作る意味も薄れてしまうのではないかというのが僕の考え方です。しかし最低限のルールは踏襲していかないと飾り物になってしまうのでバランスの取り方が難しいのです。
【茶漉しの位置を考える】
2つの形を用意してみました。
赤い線は水位です。ここまでお湯を入れられるということですね。
青の横線は最大幅の位置です。いちばん出っ張ったところですね、急須の形によってその位置が変わるのが判ります。
グレーの小さな丸は茶漉しをつける穴の位置です。
なぜ穴を最大幅の位置に空けるのか。
実際にお茶を注ぐ時、急須を傾けます。注いでいくと最終的に体勢は真横になるとします。
その時に最大幅部分がいちばん低くなるので全てのお湯がそこに流れ込むことになります。
これで急須を90度以上傾けることをせずにお茶を注ぎきることが出来る条件が一つ揃いました。
穴の位置が青線より上だと90度以上傾けることになり使用中の安定が悪い(蓋を押さえ辛い)ことや、注ぎ口ではなく蓋部分からお茶が流れ出る可能性にも繋がります。
青線より下だと最後まで注ぎきれない可能性がでてきます。
ということで理論上はこの青線の位置が最善だと思います。
もちろん機能の良し悪しはいろんな要素の組み合わせですから必ずしもこの条件を満たさなくてはいけないという事ではありません。
上の図で2つの形を用意しましたが、ではどちらがいいのか?
僕は通常、上のタイプ(最大幅部が上位置にある)のポットを作っていますが機能的に優れていると思うのは下のタイプです。
コーヒー器具でこのようなものを見た事があると思います。
一度使うとよく分りますが、これは最後まで少ない傾きでお湯を注ぎきる事に優れた合理的な構造です。
ポットを傾け水位が下がっていく様子を想像してみてください。
最大幅部がポットの一番下部で注ぎ口の高さ、距離も関係してきます。
これは金属製なので細長くS字に伸びた注ぎ口も可能ですが、粘土では成形の難しさ完成後の強度において問題が多く残ります。
作るのは大変だし、軽くぶつけただけでも折れてしまいそうで使いたくありませんね(笑)
【注ぎ口】
注ぎ口は水位である赤線より上にある事が望ましいと思います。
赤線より下にあると、給湯時に傾けてもいないのにお湯が注ぎ口から出てきてしまうという事になります。またせっかくの容量を活かす事が出来ず7分目までしか入れられないとかになっちゃうのです。
陶土は弱い素材です。割れたり欠けたりしやすいので「尖った部分」、「はみ出た部分」、「か細い部分」はなるべく作りたくありません。
そういった面から考えると注ぎ口が赤線よりあまりにも上にあると、洗って伏せた時に注ぎ口を痛めてしまう可能性が高くなります。
また、
長い注ぎ口のように先端までの距離がボディーから離れていれば傾けの角度も少なくなり注ぎ易くはなりますが欠損とデザインを考慮しなければならないと思います。
図のような一般的に伝承されてきた注ぎ口はこういった要素をうまくバランスとった形状であると思います。
以上のことにより位置関係については
【一番出っ張ったとこに茶漉し】
【茶漉しは下にある方が急須の傾きが小さくてすむ】
【注ぎ口の高さは水位にあわせる】
【注ぎ口までの距離をとる】
といった事を基本に考えて作っています。
この他、茶漉しについても「茶漉しの大きさ」「穴の大きさ」「数」「形状」を合わせ考えた水の流量が重要な要素となり先の構造と複合的に絡み合ってきます。
茶漉しについてはまだまだ勉強不足なので今回は割愛しますね(笑)
ボディーの形状はお茶の味を変えるとも言われています。
また、釉薬も味に影響するようです。
注ぎ口の水切れも重要。
あぁ、、、長々と理屈を書いてしまいましたが、きりが無いくらい沢山の要素が絡み合っています。
実際に作品を作るにあっては合理的に使い易いという事も重要ですが、心を豊かにするということも重要な機能の一つだと思っていますのでトータルでのバランスをとるということにしています。
(おまけ)
よくバランスのよい急須は取っ手で立つと言われています。真実ではあるとも思いますが…立つか立たないかは取っ手の形状によるところが大きいので、「鉛筆のように細い取っ手でも立っている」のでなければ概ね信憑性はないと思っています。そこを判断基準にするのは馬鹿げていると思います、気にしないで作った方がよいのではないでしょうか。
!→…ranking
しかし自分にとって知らないことでも、プロの方や経験者にとっては当たり前すぎて全く触れられないことも多く悶々とすることが多かったのも確かです。
そんなこともあり、ブログを書き始めたときから陶芸の技法について、サークルや自宅で独学の陶芸をされている方々の参考になればと思い、なるべく「これは当たり前」という前提のない情報の共有に心がけています。
そういうことなので、プロの方や上級者には退屈な内容も多いと思いますがおおめに見てくださいね。(笑)
[#440]急須の作り方・茶こし編
[#442]急須の作り方・口の接着編
急須の作り方を検索してる方は多いようでこれらの記事は常にアクセスが多いです。
これらはずいぶん前の記事なので、今とはちょっと作り方やフォルムも違ったりして照れるところもありますが参考にしてみてください。
今回は急須の構造について考えてみようと思います。
これらは僕が考える基本的なルールですが実際に制作するときはこれらのルールとデザインとでバランスをとる必要があると思っています。
急須(ポット)は実用の道具ですが合理的に使い易さだけを追求するのでは自分が作る意味も薄れてしまうのではないかというのが僕の考え方です。しかし最低限のルールは踏襲していかないと飾り物になってしまうのでバランスの取り方が難しいのです。
【茶漉しの位置を考える】
2つの形を用意してみました。
赤い線は水位です。ここまでお湯を入れられるということですね。
青の横線は最大幅の位置です。いちばん出っ張ったところですね、急須の形によってその位置が変わるのが判ります。
グレーの小さな丸は茶漉しをつける穴の位置です。
なぜ穴を最大幅の位置に空けるのか。
実際にお茶を注ぐ時、急須を傾けます。注いでいくと最終的に体勢は真横になるとします。
その時に最大幅部分がいちばん低くなるので全てのお湯がそこに流れ込むことになります。
これで急須を90度以上傾けることをせずにお茶を注ぎきることが出来る条件が一つ揃いました。
穴の位置が青線より上だと90度以上傾けることになり使用中の安定が悪い(蓋を押さえ辛い)ことや、注ぎ口ではなく蓋部分からお茶が流れ出る可能性にも繋がります。
青線より下だと最後まで注ぎきれない可能性がでてきます。
ということで理論上はこの青線の位置が最善だと思います。
もちろん機能の良し悪しはいろんな要素の組み合わせですから必ずしもこの条件を満たさなくてはいけないという事ではありません。
上の図で2つの形を用意しましたが、ではどちらがいいのか?
僕は通常、上のタイプ(最大幅部が上位置にある)のポットを作っていますが機能的に優れていると思うのは下のタイプです。
コーヒー器具でこのようなものを見た事があると思います。
一度使うとよく分りますが、これは最後まで少ない傾きでお湯を注ぎきる事に優れた合理的な構造です。
ポットを傾け水位が下がっていく様子を想像してみてください。
最大幅部がポットの一番下部で注ぎ口の高さ、距離も関係してきます。
これは金属製なので細長くS字に伸びた注ぎ口も可能ですが、粘土では成形の難しさ完成後の強度において問題が多く残ります。
作るのは大変だし、軽くぶつけただけでも折れてしまいそうで使いたくありませんね(笑)
【注ぎ口】
注ぎ口は水位である赤線より上にある事が望ましいと思います。
赤線より下にあると、給湯時に傾けてもいないのにお湯が注ぎ口から出てきてしまうという事になります。またせっかくの容量を活かす事が出来ず7分目までしか入れられないとかになっちゃうのです。
陶土は弱い素材です。割れたり欠けたりしやすいので「尖った部分」、「はみ出た部分」、「か細い部分」はなるべく作りたくありません。
そういった面から考えると注ぎ口が赤線よりあまりにも上にあると、洗って伏せた時に注ぎ口を痛めてしまう可能性が高くなります。
また、
長い注ぎ口のように先端までの距離がボディーから離れていれば傾けの角度も少なくなり注ぎ易くはなりますが欠損とデザインを考慮しなければならないと思います。
図のような一般的に伝承されてきた注ぎ口はこういった要素をうまくバランスとった形状であると思います。
以上のことにより位置関係については
【一番出っ張ったとこに茶漉し】
【茶漉しは下にある方が急須の傾きが小さくてすむ】
【注ぎ口の高さは水位にあわせる】
【注ぎ口までの距離をとる】
といった事を基本に考えて作っています。
この他、茶漉しについても「茶漉しの大きさ」「穴の大きさ」「数」「形状」を合わせ考えた水の流量が重要な要素となり先の構造と複合的に絡み合ってきます。
茶漉しについてはまだまだ勉強不足なので今回は割愛しますね(笑)
ボディーの形状はお茶の味を変えるとも言われています。
また、釉薬も味に影響するようです。
注ぎ口の水切れも重要。
あぁ、、、長々と理屈を書いてしまいましたが、きりが無いくらい沢山の要素が絡み合っています。
実際に作品を作るにあっては合理的に使い易いという事も重要ですが、心を豊かにするということも重要な機能の一つだと思っていますのでトータルでのバランスをとるということにしています。
(おまけ)
よくバランスのよい急須は取っ手で立つと言われています。真実ではあるとも思いますが…立つか立たないかは取っ手の形状によるところが大きいので、「鉛筆のように細い取っ手でも立っている」のでなければ概ね信憑性はないと思っています。そこを判断基準にするのは馬鹿げていると思います、気にしないで作った方がよいのではないでしょうか。
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by tenstone
| 2012-12-21 14:30
| 技法・technique
|
Comments(8)
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by
kuma
at 2012-12-21 21:02
x
私はまだ、ポットのような高度な物には手を出したことが
ありません。機能を考えると、さまざまな要素が絡み合っている
感じがします。難しそうですね…でもいつか挑戦します。
※趣佳さんへ伺いました。
忍さんの黒釉筒型ぐいのみに惹かれました。
黒のなかにほんの少しキラキラしたものが…
じっと眺めています。(笑)
大切に使わせていただきます。ありがとうございました。
ありません。機能を考えると、さまざまな要素が絡み合っている
感じがします。難しそうですね…でもいつか挑戦します。
※趣佳さんへ伺いました。
忍さんの黒釉筒型ぐいのみに惹かれました。
黒のなかにほんの少しキラキラしたものが…
じっと眺めています。(笑)
大切に使わせていただきます。ありがとうございました。
1
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tenstone at 2012-12-22 10:32
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nt-3903 at 2012-12-25 14:26
今までこんな解説を聞いた事も読んだ事もありませんでした!
すごく良くわかりました。
私の急須が何故蓋の間から漏れるのか納得できました。
次回は教えていただいたことを踏まえて作ってみたいと思います。
ありがとうございました!
すごく良くわかりました。
私の急須が何故蓋の間から漏れるのか納得できました。
次回は教えていただいたことを踏まえて作ってみたいと思います。
ありがとうございました!
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by
tenstone at 2012-12-25 20:18
□キャサリンさん
使って頂いているんですね、ありがとうございます。
グラタン皿に合うソーサーですか。
今あるのは21cmの皿かな、…これだとちょっと大きいかな?
ちょっと考えてみます。
出来たら紹介しますね。
□ nt-3903さん
お茶が蓋からでてくる原因は位置関係の他に、茶漉しの流量が関わってきますのでお茶っ葉が詰まりにくく水の流れ易い形やサイズにする事がいいと思います。
使って頂いているんですね、ありがとうございます。
グラタン皿に合うソーサーですか。
今あるのは21cmの皿かな、…これだとちょっと大きいかな?
ちょっと考えてみます。
出来たら紹介しますね。
□ nt-3903さん
お茶が蓋からでてくる原因は位置関係の他に、茶漉しの流量が関わってきますのでお茶っ葉が詰まりにくく水の流れ易い形やサイズにする事がいいと思います。
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nt-3903
at 2013-01-01 17:19
x
明けましておめでとうございます!
(年末は忙しくて今日拝見しました・・・)
確かに茶漉しを茶葉でふさいでしまいます。
だから一煎目は漏れません。
まだまだ研究の余地があるわけですね!
色々御指導ありがとうございます!
(年末は忙しくて今日拝見しました・・・)
確かに茶漉しを茶葉でふさいでしまいます。
だから一煎目は漏れません。
まだまだ研究の余地があるわけですね!
色々御指導ありがとうございます!
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tenstone at 2013-01-04 00:04
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8315masaki at 2018-04-13 22:29
札幌の陶工房&器ギャラリー【STUDIO TENSTONE】橋本忍の作品紹介や陶芸のお話。下のマイクマークからインタビュー記事へ
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【STUDIO TENSTONE】
北海道札幌市白石区平和通9丁目北10-16
電話050-7122-8155
OPEN 11:00~18:00 日祝休
※個展などで留守にしている事もありますので、お越しの際はご一報ください
2021年スケジュール
■橋本忍展
2月11日〜16日
@うつわ謙心(東京)
■『春天.喫茶去!』
5月9日〜30日
@時食商行(台北)
■橋本忍個展
7月24日〜8月1日
@望春山
深圳(中国)
■お茶を楽しむうつわ展
9月2日〜7日
@il dono 札幌店(札幌)
■グループ展
11月
@TOUCH CERAMICS(香港)
□2020年の活動
□2019年の活動
□2018年の活動
□2017年の活動
□2016年の活動
□2015年の活動
□2014年の活動
□2013年の活動
□2012年の活動
□2011年の活動
□2010年の活動
□2009年の活動
□2008年の活動
作品取扱店
■Galerie h(Geneva)
■il dono千歳(北海道)
■人禾生活有限公司(台湾)
■物.品 Wu-pin(北京)
■gallery Eclectic (London)
■ivory (webshop)
■うつわ謙心 (東京)
■WAGOKORO (webshop)
■OEN (webshop)
■はしもと陶芸館 (北海道)
■Maud and Mabel(London)
■待入荷(北京)
朝阳区新源南路16号世方豪庭一层
Shinobu Hashimoto
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5月9日〜30日
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■橋本忍個展
7月24日〜8月1日
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深圳(中国)
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